プロジェクトストーリーProject Story

吉野石膏初の海外進出
ジャカルタ工場建設物語

2016年3月、吉野石膏に新たなプロジェクトチームが発足した。
名称は「ジャカルタ工場建設準備委員会」。
100年以上の歴史を持つ同社にとって、初となる海外工場の建設だ。
海外で新たな販路を切り拓くべく、インドネシアのジャカルタに工場新設を計画したのである。
吉野石膏の社運をかけ動き出した一大プロジェクトだったが、
その道のりは決して平坦ではなかった。

地図
ジャカルタ工場の外観
電気担当社員の林
林 一寿

エンジニアリング部
制御システム課
2006年入社/工学部 電気電子工学科 卒

幼少期からパソコンが好きだったこともあり、大学では電気電子工学を学ぶ。入社後はエンジニアリング部や千葉第一工場、今治工場を経てジャカルタ工場の建設に携わる。181㎝の長身を活かし、小・中・高は野球部でピッチャーとして活躍。

工場長の小出
小出 忠弘

PT.YOSHINO INDONESIA
副社長 兼 工場長
1988年入社/理工学部 工業化学科 卒

入社後は日本各地の工場で製造を担当した後、2014年にグループ会社である日本ソーラトンの新工場建設に携わる。千葉第一工場の工場長を務め、ジャカルタ工場新設のプロジェクトに従事。趣味はゴルフで、ジャカルタでは毎週のようにラウンドに出かける。

機械担当の谷
谷 浩一

エンジニアリング部
次長
1997年入社/工学部
機械工学科 卒

機械担当としてエンジニアリング部でキャリアをスタートさせ、千葉第二工場、今治工場を経て準備委員会の副委員長となる。中学時代は野球部、高校時代はラグビー部に所属していた。

「 背景 」日本の吉野石膏から、
世界のYOSHINOに

石膏ボードの国内シェア8割を誇る吉野石膏。1901年の創業以来、石膏ボードメーカーのトップカンパニーとして業界を牽引している。ところが日本国内では人口減による新築住宅着工件数の減少など、市場の縮小が予想されている。そこで海外市場進出の道を模索し始めた。様々な調査を行い、候補地に選ばれたのはインドネシアだった。人口2億6,700万人で世界第4位、経済成長著しい新興国である。発展を遂げている最中で、まだ生活インフラが整いきっていない同国は、大きな可能性を秘めていた。吉野石膏は2013年、首都ジャカルタ郊外、ブカシ県チカランにあるデルタマスの工業地帯に土地権利を取得。そして2016年3月に正式にジャカルタ工場建設準備委員会(以下、準備委員会)が発足し、いよいよ海外初の工場建設の準備が整った。メンバーは9名。その陣頭指揮をとる委員長(当時)に抜擢されたのが小出忠弘だった。

小出

「長い歴史を持つ吉野石膏において、初の海外進出。そのビッグビジネスの旗振り役を任されたのですから、大変光栄に感じました。私自身は2009年に吉野石膏のグループ会社である日本ソーラトン株式会社の新工場の建設に携わり、2014年4月から2016年2月までは千葉第一工場の工場長を務めました。そうした経験を買ってもらえたのかなと思います。ただその一方、当社初の海外進出で、見たことも住んだこともない土地での工場建設ですから、プレッシャーもありました」

小出に課せられたミッションは、現地での責任者としてジャカルタ工場を無事に計画通り完成させ、安定的な生産を行うこと。だが、小出にとって初の海外赴任である。この社運をかけたプロジェクトが、吉野石膏にとっても今後の海外展開の試金石となる。小出も長いキャリアを持つとはいえ、不安を抱えながらの船出だった。

「 工場建設の道 」独、機械メーカーとの協業

初の海外工場建設とあって、現地の事情を鑑みながらプロジェクトを進めなければならない。本件において重要なポイントとなったのは、協力会社の選定だ。国内であれば、吉野石膏のエンジニアリング部が自ら設備を設計し工場を建てることができるが、海外は法令も違えば、働く人の国籍も異なり、日本から派遣できる社員も限られていた。そうした状況を加味し、工場内に導入する機械設備を1社に「フルターンキー契約(※)」で発注することを決めた。入札の結果選ばれたのは、ドイツの大手機械設備メーカーG社だ。

※「フルターンキー契約」
設備の設計から機器・資材の調達や据付、試運転までの全業務を一つの会社が請け負う契約形態をいう。

準備委員会で電気部門を担当した、エンジニアリング部制御システム課主任の林一寿は、当時をこう振り返る。

「初の海外工場ということで、国内工場とは仕様が全く異なる装置や制御機器を導入、運用することになりました。G社は世界中の石膏ボードメーカーに設備を導入しているトップメーカーで、品質は非常に高い。グループ会社の日本ソーラトンの工場建設の際にもG社の設備導入実績があり、今回も採用することにしました。ただ、一方でG社は設備メーカーであり、石膏ボードメーカーではありません。より高い品質のせっこうボードをつくるためには、G社の設備設計に対して、吉野石膏独自の製造ノウハウをいかに反映していくかが重要でした。そのため、せっこうボード製造のメインとなる成型の機器は、当社オリジナルのものを導入しました」

また建屋の設計・建築には日系のスーパーゼネコンT社が選定され、2017年3月に建築工事が開始した。小出とともに準備委員会の副委員長として舵取り役を担ったのは、エンジニアリング部次長で建築及び機械設備を担当した谷浩一だ。

「まずは無災害で工場を完成させ、安全な設備を導入することを意識しました。またインドネシアでは雨季やラマダンなどの影響を受けるため、工期通りに建設が進むことは珍しいと言われています。本プロジェクトでは、建築と装置の据付を別会社に発注していましたので、工事を同時進行で行うエリアは、綿密なプロジェクト管理が求められました」

初の海外進出に加え、インドネシア特有の気候や文化、宗教事情など様々な課題が浮かび上がってきた。特に工場完成後に生産現場に立つオペレーターは、現地で採用しなければならない。吉野石膏は海外での雇用経験もなければ教育経験もない。だが、高品質な製品の製造は絶対条件である。そこで採用の決まった現地オペレーターを、日本の吉野石膏の工場に送り込み、徹底した研修を実施した。

小出

「採用した方々は愛媛県の今治工場に行ってもらい、6カ月間の研修を行いました。全く石膏ボードの製造に携わったことのないスタッフ・オペレーターを採用したので、せっこうボードの仕組みや品質の重要性を理解してもらうためには、やはり日本に来てもらって体感してもらうのが一番。また試運転開始に合わせて日本から当社のオペレーター2名に来てもらい、万全の体制で製造開始に備えました」

建屋の建設や設備機器の据付が進み、2018年7月に設備の試運転を開始。ところが、ここに来て大きな問題が発生する。
製造がスタートできない事態が起こったのだ。

「 立ちはだかる課題 」海外メーカーと激論を交わす

吉野石膏の工場では通常、焼成した「せっこう」を水と混合しスラリー(泥状)にした後、原紙が流れるライン(ベルト)に流し、原紙で挟み込む。そしてその後の工程で機械を使い自動で切断している。ところが今回G社が設計した製造方法(プログラム)では次の工程に進むことができず、また、山のように不良品が発生してしまう。このままでは製造はできない。仕様を変更するようG社と交渉を行ったが、思うように話が進まない。

「彼ら(G社)にもこれまでの実績とプライドがあります。機械設備のプロとして、自分たちの手法が正しいと考えているわけですから、こちらから『変更してくれ』と要求するだけでは、首を縦に振ってくれませんでした。時には喧々諤々の議論が続きました」

なぜ吉野石膏のやり方にすべきなのかについて、幾度となく説得を試み、最後にはその手法の「カイゼン」を彼らの目の前で実践し見せることで、ようやく納得してもらえた。

「海外では発注先の要望であっても、自社のやり方を簡単には曲げません。それだけ自分たちの技術に誇りを持っているのです。国境をまたぎ考え方の違う人たちとコミュニケーションを取り、より良い工場を完成させることの難しさを実感しました」

最終的には吉野石膏が主張する製造手順にするために、機器のプログラム変更を行い、安全で効率の良い製造が可能になったが、このフェーズに2週間を要した。G社は安全性・機能性に優れた設備を導入してくれる一方、あくまで機械メーカーであるため、石膏ボードの生産現場で求められる効率性までは追求していない。そこは石膏ボードメーカーである吉野石膏の知見を掛け合わせることで、安全性と効率性の両立を実現させたのである。

「海外メーカーの設計思想やプロジェクトの進め方は、日本とは異なる部分が数多くありました。そこを踏まえて吉野石膏として重視しなければならない点を、いかに伝えていくかが非常に大切であると感じました。また本プロジェクトには宗教や文化、国籍が異なる人達が関わっていますが、目的を同じにして熱意を持って取り組めば、それは些細なことです。意見がぶつかることもありましたが、より良い工場をつくるために必要なプロセスだったなと思います。難しいプロジェクトでしたが、万国共通して重要なのは仕事に対する情熱であることを改めて感じました」

「 展望 」ジャカルタ工場を契機に、
海外展開を加速

そして2018年9月、ついに工場の操業が開始した。初めはうまくいかないこともあったが、生産効率は順調に上がっていった。準備委員長を経て正式にジャカルタ工場長となった小出は、本プロジェクトを思い返し「かけがえのない経験」と語る。

小出

「プロジェクト進行中に発生した様々な課題に対して、多国籍メンバー全員が一丸となって取り組み、一つずつ解決していったことは、吉野石膏に新たなノウハウをもたらしました。海外工場建設というビッグプロジェクトを成功させたことは、本件に携わった社員にとって大きな自信になったことは間違いありません。インドネシアというこの地でしか味わえない、貴重な経験です」

紆余曲折あったものの、G社の設備は非常に安全で高性能を誇る。これまでは海外メーカーの設備導入に対して二の足を踏むことが多かったが、海外で吉野石膏の目指す高品質なせっこうボードを製造するためには、彼らの存在も欠かせなかったことを改めて認識した。そんなこともあり、谷にはこんな気持ちも芽生えた。

「G社とプロジェクトを進める中で、日本の工場に取り入れたいと思わせる設備がありました。私自身は初めて工場建設に携わりましたが、良い工場をつくることができたと感じています。しかし振り返ると『こうすればもっと良かった』と思うこともあります。今回の経験を次の仕事に活かし、より安全で効率の良い設備を追求したいと思っています」

海外進出に向け第一歩を踏み出した吉野石膏。第二弾として、すでにベトナムでも新工場建設のプロジェクトが進んでいる。インドネシアに初の海外工場が完成したことで、国外の工場建設の下地ができあがり、さらなる飛躍に向けた機運が高まっているのだ。

小出

「日本では人手不足が懸念され、特に工場は人員を確保することが難しくなってきています。吉野石膏が海外に進出したことにより、国内だけではなく海外勤務も可能な体制が整いましたので、今後は人材の交流などグローバル化を積極的に進めていきたいと思います」

そう話す小出の目には、世界各国でせっこうボードを生産する吉野石膏の未来が映っている。

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